chintaro3の日記 

基本、チラ裏です。書いておくと頭の中が整理できますゆえ。

VOCALOIDの話 つづきのつづき。

昨日のVOCALOIDの話のつづきの続き。

初音ミクが一番、やっかいというか、要するに僕らにとっては「初音ミク」っていうのをどう論じたらいいか解んないんですよ。キャラなんだけど、キャラクターものとして扱うにはあまりにも大きな現象を含みすぎていて。
by 黒瀬陽平さん@ねとすたシリアス第1回

(3)アマチュアミュージシャンの切羽詰まった状況
初音ミクブームにおいて特徴的だったのは、計画的にブームを先導・指揮するような中心的な人物、仕掛け人など存在しなかったということです。基本的には、各個人が思い思いに自由に行動していたのに、しかし全体としてみると、恐るべき連携プレイをしているかのように、初音ミクブームは拡大していったのです。
こういう現象が実現した理由として、ニコニコ動画の威力もさることながら、初音ミク発売以前の段階で既に、DTMを趣味とする人たちの間でいくつかの重要な共通認識があった、という事に注目したいと思います。話は約15年前・・・パソコン通信の時代に遡ります。
 
インターネットが普及する前、ニフティ等のパソコン通信の時代には既に、かなり大勢の人が、パソコンとシンセサイザーDTM(デスクトップミュージック)を趣味として楽しんでいました。制作物はMIDIファイル(SMFとも言う)として制作者どうしで交換しあうことができ、ニフティにもMIDIフォーラムが立ち上がって、盛り上がっていました。ファイルをMIDIフォーラムにアップロードして、それをいろんな人がダウンロードして聴いて、批評しあったり人気投票したりしていました。
2001年に問題が起こります。アップロードされている楽曲の多くが、ヒット曲やゲーム音楽などのカバーやアレンジ物だったため、JASRACから使用状況に応じた使用料を払うように要求されたのです。JASRACにしてみれば、法的に認められた正当な権利を主張しているだけですから、ここでJASRACを悪く言うのはお門違いではあるのですが、趣味としてDTMをやっていたほとんどの人は、これに正しく対処することができませんでした。結果的に、MIDIフォーラムは解散することになってしまいました。

共通認識1:JASRAC管理曲に依存するのは危険。

 
また、ニフティの運営にも問題がありました。主流はやがてパソコン通信からインターネットへと移っていったのですが、それまでパソコン通信を先導していたニフティは、せっかくパソコン通信時代に出来上がっていたコミュニティーやその資産を、インターネット上に移行させることに失敗します。

共通認識2:1つの会社が提供するサービスのみに依存するのは危険。

 
インターネットの時代になると、DTMをやっている人たちは、それぞれ各自でホームページを作り、自分の作品をそこで公開するようになります。(1997年頃〜)制作者同士での相互リンクも活発に行われていたので、検索エンジンでの表示ランキングも好位置に付くことが出来ました。また、共通認識1の成果として、オリジナル曲を発表する人が少しづつ目立つようになってきます。オリジナル曲だけではなかなか注目してもらうことが出来ないので、有名なヒット曲(JASRAC管理曲)のカバーやアレンジ物を客寄せとして制作し、それと併せてオリジナル曲を宣伝して、聴いてもらうというような作戦を取る所も多くありました。
しかし、このころからDTMの1つの欠点が、いよいよ深刻なボトルネックとして認識されはじめます。

共通認識3:やっぱりボーカルが無いと一般受けしない。

 
2001年頃になると、P2Pでのファイル交換が広がりを見せ始めます。mp3の違法コピー物がインターネットで簡単にダウンロードできるようになってきてしまったのです。これは、音楽を本業としている人にとっても打撃でしたが、趣味でDTM作品を公開している人たちにとっても打撃でした。タダでプロの優れた音楽作品がどんどんダウンロードできてしまうのですから、アマチュアの音楽作品を探して聴きに来てくれるような人が、どんどん減っていってしまったのです。DTMをやっている人の機材やソフト、実力は向上してきていましたし、配布形態をMIDIファイルからMP3ファイルに変えていくなど、時代の変遷に応じた努力は続けられていたものの、インターネット上での存在感はどんどん薄くなっていってしまいました。
 
2003年頃から、ブログやSNSが普及しはじめると、事態はさらに悪化します。ほとんどのブログやSNSが、音楽ファイルのアップロード/ダウンロードに対応しておらず、ブログやSNSで音楽作品を配布することができないのです。(この状態は現在まで続いています。)音楽作品は従来型のホームページで公開・配布せざるをえない状況が続く訳ですが、ここで、「ブログの方が検索エンジン上で上位に表示される」という事の負の側面として、「従来型のホームページの表示ランキングが相対的に下がる」という状況が生じます。検索エンジンでの地位が低下してしまった事で、アマチュアの音楽作品を探して聴きに来てくれるような人は、いよいよ少なくなってしまったのです。
この状況を打開すべく、アマチュアやインディーズの音楽作品の配布を支援するようなサービスも、色々出てはきました。しかし、結果的には苦戦を強いられることになります。どれぐらいお客さんが少ないかというと、せっかく苦労してオリジナル曲を完成させてUPしても、ダウンロードして聴いてくれるのは5人か10人ぐらい、なんていうのがむしろ普通で、100人を超えれば上出来。自分でダウンロードする以外にカウンターが回っていかない、なんていう悲しい状況も珍しくなかったのです。

共通認識4:お客さんを集めると言うのはとにかく大変だ。

 
このような課題が、初音ミク登場以前に、いわば伏線として、DTMで音楽制作する人たちの間で認識されていたんですね。この伏線が、ニコニコ動画初音ミクの登場により、劇的な展開を見せることになったのです。
 
・ボーカルが無いと一般受けしない。
初音ミク登場!DTMでボーカルを入れられる!
・お客さんを集めると言うのはとにかく大変だ。
初音ミクというキャラクターを立ててニコニコ動画に投稿すれば、何百人という人が聴きに来てくれる!(キャラクターの効果)
JASRAC管理曲に依存するのは危険。
→オリジナル曲で勝負をかける!
・1つの会社が提供するサービスのみに依存するのは危険。
Youtubeやzoomeにも並列投稿・どんどん転載、イベントにも積極参加、UTAUの登場、クリプトン以外のVOCALOIDも積極的に導入。
 
つまり、長い間こつこつと音楽制作をやってきたような実力のある人達が、それまでの苦難と教訓をバネに、ここぞとばかりに惜しげもなくオリジナル作品を供出し、全力投球でVOCALOID作品を制作してニコニコ動画にUPしてくれた・・・という事が、2007年9月以降に起こった出来事の核になったと思います。お客さんが「初音ミク」を目印に集まってきた時、それを裏でしっかりと支えきるだけの実力を持った人たちが、たくさん居てくれたという事。このことは、初音ミクをはじめとするVOCALOID達にとって、とても幸運なことだったと言えるでしょう。
 
関連:初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で --- ITmedia 2008年03月18日
 
余談 ニコニコ技術部の「はちゅねミク」
 
追記:
ここまで書いて、VOCALOIDの未来について書きたいとは思ったんだけど、残念ながら私はそこまで語れるほどのものはもちあわせてない。・・・と思って、悩んでたら、もうみなさん読んでると思いますけど、絶妙なタイミングで平沢師匠のありがたいお言葉が。
平沢進が語る、音楽の新しいスタンダード --- ASCII.jp
書いて部屋に貼っておきたいような名言がてんこもり。
 
追記その2(1/12):
同人音楽やインディーズ関係については、私がその動向をまったく追ってなかったので言及することが出来ません。この点については不足をお詫びし、より詳しい方にお任せしたいと思います。