chintaro3の日記 

基本、チラ裏です。書いておくと頭の中が整理できますゆえ。

TPPは経濟問題ではなく政治問題

ネタ元:
中野剛志 視点・論点 「TPP参加の是非」
http://www.youtube.com/watch?v=8G29qFqId2w
 
これに対する反論
TPP参加による消費者の利益は生産者の損失より大きい
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51751984.html

この話題が出る度に、律儀に同じ解説を繰り返す池田先生、お仕事お疲れ様です。まぁ、このレベルの話を踏まえない話を中野先生がしたのはマズイね。経済学者から一斉に集中放火を浴びるハメになっている。
 
ただね、私はこの、池田先生が解説している内容は、企業で実務やってる人に言わせれば、それはそれで周回遅れだと思うの。
 
この経済理論が正しいのならば、あらゆる事を完全に自由化することが、経済的に最も合理的であり、そこを目指すべき、という話になるはず。それって突き詰めていくと、ぶっちゃけ、日本はアメリカの49番目の州になったほうが良いという話にならないかい? 究極的には、世界中の国境を取っ払って、世界全部で1つの国って言うことになるのが理想なのかもね。パスポートなんて不要。誰がどこへ行くのも自由。どこからどこに何を送るのも自由。
 
もし池田先生が、そういう事まで視野に入れた上でこの論を布教しているのであれば、そりゃぁ立派な話だと思うよ。でもそうじゃないでしょ。日本はアメリカの49番目の州になったほうが良いんじゃないかとか、国境なんか取っ払っちまえ、なんて言う話は、もう経済問題ではなく、政治問題だからね。経済学の先生達は、政治問題には口を出さないで居るだけなの。専門外だからね。
 
学者としては、得意分野だけ口を出して、不得意な分野は黙っておく、っていうのが誠実な態度なのかもしれないけど、それってどこででも通用する話なのかしらね。
 
 
貿易によって経済的な合理性を追求することには欠点もある。ちょっと前に中国がレアアースの輸出規制を始めたせいで世界中がてんやわんやしたばっかり。中国のレアアースが激安なせいで、中国以外の世界中のレアアース鉱山が閉山してしまった後で、中国がレアアースの輸出を止めてしまった、などという困った事態が、現実に起こってしまったのだけれど、そういうリスクが、池田先生の解説する理論には考慮されてないんだよね。経済的な合理性を追求すると、一方では政治的なリスクが上昇するという問題がある。だから、そのバランスで物事をみなくちゃいけない、と言う事について、せめて一言必要だと思いますよ。
 
つい最近のニュースでいくと、タイの水害でHDD工場が大きな被害を被ったことなどがニュースになっており、現在進行中です。でも、Western Digital社は偉かったね。工場をタイに一極集中させずに、マレーシアやシンガポールにも工場を持っているんだ。あれ、経済的な合理性を追求するなら、1極集中するのが最も効率いいはずだよね。しかし、現実には、諸々のリスクを考慮して、分散して工場を持ったほうが、少々の経済的合理性より勝るっていう実例だよね。常識だね。
 
 
それからもう一つ大事なこと。生産活動は、単に物やサービスを生産するだけでなく、その活動を通じて労働者を教育する役割も担っているという事。工場が海外に移転することの問題は、賃金の事だけではなく、「仕事を通じて学ぶ、という機会が奪われる」って事だと思う。「学ぶ機会が失われる」という事が、どれほどの経済的損失をもたらすかという話も、先の経済理論には欠けている。
 
私の身近な例しか出せないけど、例えばパソコン。中のマザーボードは大半が台湾もしくは中国製。日本にもマザーボード生産の基本的な技術はあるが、価格面で太刀打ち出来ないので、ニッチな市場向けにしか機能しておらず、従って、パソコンのマザーボードの生産に関わっている日本人というのは非常に少ない。ここで何が問題かというと、「マザーボードの生産を通じて、マザーボードに関して学ぶ」という機会が、日本人には殆ど与えられない状況になってしまっているという事なんだ。この状況が長期間続いた結果、じゃぁ、パソコンの次のものが生まれてきた時・・・例えばスマホ・・・さらにその先の未来のプロダクツ・・・では、日本の電子機器メーカーは今よりさらに惨めな思いをすることが、ほぼ確定してしまっている。「低付加価値な仕事は発展途上国で、高付加価値な仕事は先進国で。」なんていう都合の良い話は、現実にはもう、通用しないんだ。確かに、マザーボードの生産なんて、見かけの金額は安く、低付加価値かも知れない。でも、それは必ずしも本質的な価値が劣ることを意味しない。なにしろ、今の彼らは、地道な努力の結果、金を積まれても今のほとんどの日本企業には真似のできない次元に、既に来てしまっているからね。
今更言っても手遅れだが、私は台湾産や中国産のパソコンのような物には、高めの関税をかけて、国内の企業の人材育成が出来る程度の状態を保ったほうが、長期的には国としてメリットがあったのではないかと思う。
 
人材育成のための教育制度に金をかける事の重要性は、理解されているはずなのに、人材育成の機能をもった産業を、経済効率の名のもとに切り捨てるというのは、金勘定だけで判断すると、痛い目に合いますよ。
  
 
オマケ
内田樹氏の知らない比較優位
http://news.livedoor.com/article/detail/5978857/

日本の製造業の優位性なんて砂上の楼閣にすぎないし、貿易黒字を現金で持ってれば無駄だが、運用するんだから黒字のほうが良いに決まってるだろ。そもそも、そういう経済理論を率先して実現したアメリカが、この体たらくな訳でね。
 

=====================================
11/1追記
よく考えたら、池田先生からリスクの話なんか聞いたこと無い気がする。原発のあの事故の後でさえ原発推進派なんだからね。炎上をものともせずネットその他でどんどん発言するのも、普通の人のリスク感覚とは、本能的に何かちょっと違うのかもしれない。それはそれで一貫している。よく言えば勇敢。そういう人も必要だが、それを牽制するのも民主主義の役目ってもんでしょう。
 
TPP反対派と推進派が話して得られた共通の結論 - Togetter
http://togetter.com/li/207958

推進派と反対派が話して、現政権が交渉することはハイリスク過ぎると共通認識が出来たのは幸いでした。

 
関連
[考え事]関税撤廃と消費税増税
http://d.hatena.ne.jp/chintaro3/20111102/1320237577