2008年度(平成20年度)現在、個人の基礎控除が年間110万円ある。従って、その金額までは課税されない。また、相続が発生した場合、遡って課税されることがある。年間110万円を超える部分に対して課税される税率は、金額により10%から50%と徐々に高くなる。(累進課税制度)。相続税より基礎控除額が低いのは、贈与税は相続税の補完税である為(相続税の負担を公平とする為に、設けられた)。
個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。
贈与税というのは、インターネット上での出来事を想定していないものと思われるので、インターネット上のフリーウェアや各種無料サービスに贈与税の話をあてはめるのは野暮なのかもしれないけれども、インターネット上での各種取引を正常化するための足がかりとしては、役に立つかもしれない。
贈与の考え方をインターネット上に持ち込むには、まずその「評価額」というのを定める必要がある。そして、評価額のついたものを無償もしくは格安で供与するなら、それは贈与ですね、となる。年間110万円までの贈与は控除されるが、逆に言うと110万円以上は控除されないということ。1つ1つのサービスやソフトの評価額は低くとも、1年間に消費した無償コンテンツの評価額の合計がいくらになるんだろう?と考えたとき、それが確実に110万円以下になると言い切れるのかどうか、私には自信がない。
たとえば、ニコニコ動画に投稿される動画作品の場合。
ニコ動では既に、「これ、制作費いったいいくらかかってんの!?」っていうような動画がゴロゴロしている訳。これが「贈与にあたる」と解釈する場合、
・投稿者からニコ動に対する贈与
・投稿者からニコ動視聴者に対する贈与
という2つの意味合いが考えられる。個人から法人への贈与の場合、贈与税とは言わないらしいが、意味合いとしてこれに相当する課税はあるので同じことだ。
制作費がいくらだったかに関わらず、投稿される作品への評価というのは、投稿直後は定まっていないから、投稿直後の評価額は¥0円である、という考え方は有りうると思う。しかし、実際にそれが大勢の人に視聴され、支持されるようになったならば、その評価額がいつまでも¥0円てことは無いはずだ。どう考えても。
では仮に、ある作品が大勢に視聴された結果、その作品の評価額が10万円になったとしよう。では、この架空の評価額10万円は、いったい誰から誰に贈与されたものなのだろう? ざっと考えて、これには全く正反対の2通りの考え方が有りうる。
(a)投稿当初は¥0円だった評価額が、ニコ動の集客力のお陰で有名になり、10万円という評価額になった。すなわちこの評価額10万円は、ニコ動から投稿者に贈与されたものに相当する。
(b)投稿した動画には、もともと本質的に10万円の価値があった。それをニコ動に投稿してあげたことによってニコ動に客が集まり、ニコ動の収益の助けになっている。すなわちこの評価額10万円は、投稿者からニコ動に贈与されたものに相当する。
この食い違いがどこから来るかというと、その「評価額の根拠は何か」という所の不一致が原因。「ネット上のコンテンツの評価額を決めるための社会的なコンセンサスが無い」という問題は、今後ますます色々なところで影を落とす可能性が有ると思う。
仮に(a)と(b)が同時に成り立つ、と考えた場合、10万円が同時に双方向に行き来するので、打ち消しあって贈与は無かったことになる、と言えるのだろうか。これも怪しい。無名の人がお手軽に作った動画がニコ動で爆発的な人気を得たなら、(a)の要素が強いことになるが、もともと著名なプロが力作を投稿した場合は(b)の要素が強いことになり、(a)と(b)がちょうどバランスするなどというのはむしろレアケースのはずだ。
普段、たくさんの新着動画をチェックしている私としては、たとえば動画1本の視聴に対する評価額が数十円〜数百円で、それが「無料もしくは格安視聴」=「贈与を受けた事に相当する」とみなされても、それが積もり積もって年間総額110万円を越えるなどという心配は、物理的にありえないので無用だ。でももし1本の視聴の評価額が映画並みに1800円だとか、DVDなみに数千円だとか、もし言われたら、年間110万円以上の贈与を受けている事に相当する、という判断が有りえることになってしまう。
もっと直接的な問題として考えられるのは、いわゆる「違法アップロードの黙認」の問題。この「権利者の黙認」が「権利者からの贈与」に相当すると解釈されれば、高額な評価額→高額な贈与税の対象となる可能性だってありえることになるよ。
ネット上のコンテンツの「評価額が定まっていない」という問題は、税法上まで含めて考えた時のシステムとしては、視聴者に対する、ある種の攻撃手段(脱税!)と成り得るという意味で、重大な危弱性の1つであるという考え方もできそうだ。「振り込めない詐欺」が、違う意味で冗談ではなくなる可能性があるのだ。
願わくば、「タダでも税金を払わなくちゃならないなら、ちゃんと評価額相当の料金を払って制作者にも報酬が行くようにした方がいいんじゃね?」という方向に皆が考えるようになってくれれば、それが一番いいのだけど。