chintaro3の日記 

基本、チラ裏です。書いておくと頭の中が整理できますゆえ。

合法的に搾取する仕組みと衰退する社会の話

「食料自給率を上げる必要は無い」と主張する人たちがいる。輸入すればいいじゃないか。仮に、万一食料が輸入できないような事態になったとしたら、食料以外の資源も輸入できないはずなので、それらに依存した食糧自給もどのみち出来なくなるのであり、食料自給率だけ上げることに意味などない。そんなことにならないように諸外国と友好関係を保つことこそ重要だ、というような主張だ。
 
ここには、「なぜ日本の食糧自給率が下がってしまったのか」という視点が無い。そこに腹が立つ。
 
なぜ日本の食糧自給率が下がってしまったのか。要するに商売にならないからである。成果物であるところの農産物の価格が安すぎてビジネスとして成立しておらず、後継者を育てる余裕がない。その結果、どんどん廃業して食料自給率が下がる。
 
さて、この問題は、「輸入すればいい」で片づけてよい話なんだろうか?
 
似たような話はいろんなところにごろごろしている。労働力不足の話はだいたいこれだ。後継者を育成できるだけの金銭的な余裕が無いのだ。これでは今の社会の形を維持することすらおぼつかない。経済発展どころの話ではない。
 
これはそのまんま、「安い労働力が足りないなら外国から連れてくればいい」という主張と地続きの話である。ここには「安い賃金で働かされる外国人の人権」みたいな視点が欠けていることがまず問題であるし、さらには日本よりアメリカで働いたほうが高賃金だから日本では働きたくないと言われたらそれでおしまいという話でもある。
 
これは実は食糧生産についても同じことが言える。自給できないなら輸入すればいいというが、その農産物を生産している国は当然高く売りたい。アメリカに売った方が高く売れるなら日本には売りたくない。そういう訳で、国家間の友好関係が保たれていても、日本に食料が輸入できないという状況は生じうる。解決策は簡単で、高く買えばよい。さて、そのとき、価格の高騰が、こちらが望む範囲に収まってくれる保証はない。この問題を甘く見ない方が良い。
 
そもそも、この問題の発端は、価格決定権が一方的に買い手側に有るという状況が合法化されているという事に起因している。考えてみよう。もしコンビニやスーパーに並んでいる商品の価格を、顧客が一方的に自由に決められたなら、コンビニやスーパーは商売として成り立つだろうか? 
 
そんなことはあり得ないと思うだろうが、農産物というのは信じられないことにそれが合法的にまかり通ってきたのである。農産物の生産原価がいくらかかっているとかいうことに関係なく、一方的に青果市場のバイヤーが農産物の価格を決めるのである。それに対抗する手段としては、生産者が青果市場をボイコットして、自分で販路を築いて売りさばくしかない。今後、農業をまともなビジネスにしようと考える人たちはそっちに移行せざるをえないだろう。幸い、インターネットのお陰でそれが可能になりつつあるというのは良いニュースだ。
 
労働者の場合は少しマシだ。最低賃金というのが規定されているからだ。底なしに安い価格で買い叩かれてきた農家よりましだ。しかし、その最低賃金は労働者が子育てできる水準に達していない。これは問題だ。後継者を育成できない社会は衰退する。当たり前の話だ。社会が衰退するように定められている最低賃金というのはまったく意味が解らない。合法的に搾取する仕組みがまかり通る社会というのは衰退する。